大宮の夜、酔い覚ましの風と疼く胃袋
大宮駅。埼玉最大のターミナル駅。 夜も更け、時計の針はとうに日付を跨いでいる。
今夜の飲み会は思いのほか盛り上がり、気づけば終電もなくなった時間になっていた。
家路を急ぐ人々の波がすっかり引いた駅前を、私は一人歩いていた。
アルコールで少し熱を持った体に、深夜の冷たい風が心地よい。
しかし、どうだろう。 アルコールがゆっくりと抜けていくにつれて、私の中である明確な感情が芽生え始めていた。
……小腹が、空いた。
飲み会では酒ばかり飲んで、つまみを少しつまんだ程度だった。
酒を飲むと、どうしてこうも炭水化物が欲しくなるのだろう。
「ラーメンか……」 大宮の街には、数多くのラーメン店がひしめき合っている。
あっさりした中華そば、野菜たっぷりのタンメン、魚介が香るつけ麺。
今の私の胃袋は、一体何を求めている? 歩きながら、自問自答を繰り返す。
いや、あっさりではない。もっとガツンとくる、強烈なパンチが欲しい。深夜の静寂を打ち破るような、凶暴で、それでいて包容力のある一杯。 そうだ、家系だ。 「大宮 家系」。そのキーワードが頭に浮かんだ瞬間、私の足は自然とある方向へと向かっていた。
闇夜に浮かぶ赤い看板。「石川家 大宮店」の誘惑

東口の路地を進むと、暗がりの中に煌々と輝く赤い看板が見えてきた。
『石川家 大宮店』。 これだ。今の私が求めていたのは、この赤い看板の安心感と圧倒的な引力だ。
深夜だというのに、店の中からは活気が漏れ聞こえてくる。ガラス戸越しに見えるカウンターには、私と同じように夜の街を彷徨い、この店に吸い込まれていった同志たちの背中が等間隔に並んでいる。 迷うことなく、引き戸を開ける。
「いらっしゃいませ!」
威勢の良い声が出迎えてくれる。 券売機と対峙する。ここは迷わず、基本の「ラーメン」だ。
変にトッピングを乗せる気分ではない。純粋に、麺とスープと正面から向き合いたい。
食券を買い、店員さんに渡す。
「お好みはありますか?」 「すべて普通で」
麺の硬さ、味の濃さ、油の量。家系ならではのカスタマイズだが、まずはこの店の基本の味を真っ直ぐに受け入れたい。
深夜のオアシスで一息つく
案内されたカウンター席に腰を下ろす。

プラスチックのコップに注がれた冷たい水を一口。 くぅ……。
冷たさが、アルコールで火照った喉をすーっと潤していく。
この何気ない一杯の水が、これから始まる戦いへのゴングだ。
カウンターの前に並ぶ、家系ならではの調味料たち。

おろしニンニク、豆板醤、刻み生姜、胡椒、ゴマ、そしてお酢。
この布陣を見ているだけで、得体の知れないワクワク感が込み上げてくる
これらをどう駆使して、自分だけの最高の一杯を作り上げるか。
まるでパレットに並んだ絵の具を前にした画家の気分だ。

厨房からは、麺の湯切りの小気味良い音が聞こえてくる。
チャッ、チャッ。 いいぞ。私のラーメンが、今まさに産声を上げようとしている。
いざ、着丼。深夜の豚骨醤油という圧倒的な暴力
「お待たせしました、ラーメンです!」
目の前に、ドンと置かれた一杯。

おお……。これぞ家系。 茶濁したスープの表面には、キラキラと輝く鶏油(チーユ)の層。
大ぶりのチャーシュー、こんもりと盛られたほうれん草。そして、丼の縁にそびえ立つ3枚の海苔。
完璧なビジュアルだ。深夜にこれを見る背徳感。たまらない。
湯気とともに立ち昇る、豚骨の野性味溢れる香りと、醤油のキリッとした香り。
たまらない。よし、いただこう。
五臓六腑に染み渡る黄金のスープ
まずはスープだ。レンゲを静かに沈め、すくい上げる。

ズズッ……。 ……うまい。
ガツンとくる。豚骨の濃厚な旨味が、口いっぱいに広がる。
しかし、決してくどくない。後から追いかけてくる醤油のキレが、見事に味を引き締めている。
そして鶏油のまろやかな甘み。この三位一体のバランス。
深夜のすきっ腹に、ダイレクトに響く。
五臓六腑に染み渡るとは、まさにこのことだ。
アルコールで疲れた内臓たちが、歓喜の声を上げているのがわかる。
スープを持ち上げる、たくましい太麺
スープの波状攻撃を受け止めたら、次は麺だ。 箸を深く沈め、底から麺をグワッと持ち上げる。

これだ。家系特有の、少し短めの中太ストレート麺。
フーフーと息を吹きかけ、一気にすする。 ズズズッ!
モチッとした力強い食感。そして、噛むほどに小麦の風味が鼻を抜ける。
短いからこそ、すすりやすく、スープのハネも気にならない。
濃厚なスープをしっかりと纏った麺が、喉の奥へと滑り落ちていく。 箸が止まらない。
ここで、具材たちの出番だ。 まずはほうれん草。スープに浸して、麺と一緒に口に運ぶ。
シャキッとした食感と、スープの濃厚さが絶妙にマッチする。
家系ラーメンにおいて、ほうれん草は単なる彩りではない。箸休めでもない。立派な主力部隊だ。
そしてチャーシュー。 肉肉しい食感を残しつつも、柔らかい。
噛み締めると、肉の旨味とスープの塩気が口の中で見事に合わさる。
海苔はどうする? スープにひたひたに浸し、麺をくるりと巻いて食べる。
磯の香りと豚骨醤油の相性。誰がこれを考えたのだろうか。天才としか言いようがない。
丼という小宇宙との対話、そして満腹の向こう側
半分ほど食べたところで、味変の時間だ。 卓上のおろしニンニクをスプーン一杯、豆板醤を少々。 スープに溶かし込み、再び麺をすする。
……おおっ! ニンニクの強烈な風味が加わり、スープの凶暴性が一気に跳ね上がった。豆板醤のピリッとした辛味が、食欲のアクセルをさらに踏み込ませる。 深夜にニンニク。明日のことなど、今は考えたくない。今この瞬間、目の前のラーメンと全力で向き合うことだけが、今の私のすべてだ。
ズズズッ、ズルズルッ! 額にうっすらと汗をかきながら、無心で麺をすする。丼という小宇宙の中で、私は今、完全に自由だ。
気づけば、丼は空になっていた。 最後の一滴までスープを飲み干したい衝動に駆られたが、深夜であることを思い出し、すんでのところでレンゲを置いた。
ふぅ……。 食った。大満足だ。 胃袋の確かな重みが、心地よい。
「ごちそうさまでした」
カウンターの上に丼を上げ、テーブルを布巾でサッと拭いて席を立つ。 「ありがとうございました! またお待ちしてます!」
厨房から、威勢の良い、しかしどこか温かい声が背中に掛かる。 この深夜のやり取りが良い。孤独な食事であっても、最後には人との小さな繋がりを感じることができる。
店を出ると、冷たい夜風が火照った顔を優しく撫でた。 満腹感と、少しの背徳感、そして大きな幸福感に包まれながら、私は再び大宮の夜の街へと歩き出した。 家系ラーメン。それは深夜に現れる魔物であり、最高の癒しだ。
石川家、大宮店。 また一つ、大宮の夜に頼もしい味方を見つけてしまった。 明日は……いや、今日は少しだけ、長めに寝ることにしよう。
今回訪問した「石川家 大宮店」の詳細
石川家 大宮店へのアクセス
〒330-0802 埼玉県さいたま市大宮区宮町1丁目99−3 Lhビル 1F
| 営業時間 | 月・火・日 11:00 – 00:00 水・木 11:00 – 02:00 金・土 11:00 – 03:00 営業時間・定休日は変更となる場合がございますので、ご来店前に店舗にご確認ください。 |
| オープン日 | 2021年9月16日 |
| 公式アカウント | https://x.com/ishikawaya0916 https://www.instagram.com/ishikawayaomiya/ |
| 駐車場 | 無 |


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