「とんかつ割烹 山下軒」のご紹介
火曜日の午後、13時半。少し遅い昼を求め、大宮を歩く。
暖簾を揺らして入ったのは「とんかつ割烹 山下軒」。

店内には静けさがあったが、その奥から響く油の音と香りが、空腹に火をつける。

「とんかつ100gと、アジフライ、それからカキフライを。」
そう告げて席に沈む。

厨房では炎が立ち上がっていた。
白衣の袖をまくったマスターが、無言で火と向き合う。
豚の生姜焼きを焼いているのだろうか、強い炎が鉄板を照らし、湯気が揺れた。
――料理に向き合う背中というのは、どうしてこう、心を掴むのか。
しばらくして定食が届く。

味噌汁からアサリが顔を覗かせる。
ひと口すすれば潮の香りがふっと広がる。
うまい。
味噌汁がうまい店は、ご飯もうまい。

白い湯気の向こう、粒が美しく立った飯が待っていた。
噛むほどに甘い。
「とんかつとは、こういう白飯に寄りかかって成立するものなのだ」
そんな独り言が頭の奥で転がる。


やってきたカツを箸で持ち上げる。
衣が軽い。
サクッと噛むと香ばしさが立ち、遅れて肉の甘みが押し寄せる。
油っぽさがない。
それなのに満足感がある。
――これはチェーン店では食べられないやつだ。


アジフライは、噛んだ瞬間に魚が香る。
カキフライはミルキー。
衣の中に旨みが閉じ込められ、舌の上で溶けた。
「あと一つあってもいい」
自然とそう思わせる。
食べ終え、お茶をすすりながら厨房を眺める。
マスターはもう次の仕込みに入っていた。
静かに包丁がまな板を叩く音。
炎、湯気、油、包丁。
そのすべての向こうに、たった今まで自分が食べていた料理がある。
火曜日の昼下がり、ただ腹を満たしただけのはずが、ずいぶん豊かな時間になった。
また来よう。
次は夜に来て、一杯やりながら揚げ物をつまみたい。
あの厨房の熱気を背に受けて。
それだけで、十分な理由になる。
今回訪問した「とんかつ割烹 山下軒」の詳細
とんかつ割烹 山下軒へのアクセス
〒330-0845 埼玉県さいたま市大宮区仲町2丁目33−1
| 営業時間 | 月・火・水・木・金 11:00 – 14:00 17:00 – 21:00 土 17:00 – 21:00 日・祝日 定休日 営業時間・定休日は変更となる場合がございますので、ご来店前に店舗にご確認ください。 |
| オープン日 | 1913年 |
| 駐車場 | 無 |


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