与野の夜、もう一杯だけ飲みたくなって
与野の夜は、派手ではない。
駅前の灯りも、どこか生活の延長線上にある。仕事帰りの人が歩き、電車の音が流れ、少しだけ夜風が頬をなでる。
その夜の俺は、すでに3軒目だった。
正直に言えば、細かいことはあまり覚えていない。何を話したか、どんな順番で酒を飲んだか、記憶の輪郭はところどころぼやけている。
だが、不思議なもので、うまかったものの感触だけは残っている。
グラスを持った手の重み。湯気の匂い。揚げ物の衣を噛んだ瞬間の音。日本酒が喉を通って、体の奥にすっと落ちていく感じ。
ああ、俺はたしかにここで飲んでいた。
そう思わせる店が、与野の「立ち呑みハルカゼ」だった。

立ち呑みハルカゼの外観に、ふらりと吸い寄せられる
3軒目にちょうどいい、軽やかな店構え
店の外観には、立ち飲みらしい気軽さがあった。
かしこまって入る店ではない。予約だ、コースだ、肩肘だ、そういうものをいったん置いておける感じがある。
3軒目の人間に必要なのは、豪華な看板ではない。
「まだ飲めるぞ」と思わせてくれる灯りだ。
その灯りに誘われて、ふらりと入る。
酔っているくせに、こういう判断だけは妙に冴えている。
“ここ、いいんじゃないか”
心の中でそうつぶやきながら、暖簾をくぐるような気持ちで店へ入った。
立ち呑みという言葉には、いい意味での軽さがある。座らないからこそ、長居しすぎない。けれど、料理と酒がうまければ、足はなかなか帰ろうとしない。
この夜も、まさにそれだった。
まずは日本酒、夜の記憶をゆっくりほどく

酔った体に染みる、静かな一杯
3軒目で日本酒。
冷静に考えると、なかなか危ない選択だ。
でも、夜の酒場では、そういう判断がいちばん正しい時がある。
目の前に置かれた日本酒は、きれいだった。
透明で、静かで、しかし中にはしっかりとした力がある。グラスを持ち上げると、ふわりと米の香りが立つ。
ひと口。
“ああ、これはいい”
言葉にすると簡単だが、体の中ではもう少し複雑なことが起きている。
最初に冷たさが来る。次に香りが広がる。最後に、酔いの中へさらにもう一段、深く沈んでいく。
これは水ではない。もちろん、ただの酒でもない。
夜の続きを許してくれる液体だ。
喉を通るたび、さっきまでの店のざわめきや、駅前の灯りや、誰かの笑い声が、少しずつ遠くなる。
そして目の前の皿だけが、くっきり見えてくる。
鯵の海苔巻き、つまみとしての完成度

海苔、鯵、酒。この三角形が強い
鯵の海苔巻き。
これがまた、酒飲みの心をよくわかっている。
派手な料理ではない。だが、こういうものが出てくると、酒場への信頼が一気に増す。
海苔の黒。鯵の艶。薬味の気配。
箸でひとつ持ち上げると、海苔の香りが先に来る。噛むと、鯵の旨みがじんわり広がる。そこに日本酒を追わせる。
“なるほど、こう来たか”
魚の脂が、酒でほどける。
海苔の香ばしさが、口の中を締める。
これは一品料理というより、酒を飲むための装置みたいなものだ。噛んで、飲んで、また噛む。その繰り返しが、やけに楽しい。
3軒目なのに、箸が止まらない。
胃袋の空き容量なんて、もうあまり残っていないはずなのに、こういう肴は別の場所に入っていく。
酒飲みの体には、たぶんそういう隠しポケットがある。
アジのレアカツ、衣の中にある半生の色気

サクッとして、ふわっとして、酒が進む
アジのレアカツ。
名前を見ただけで、もううまそうだ。
揚げ物なのに、重たすぎない。魚なのに、物足りなくない。しかもレア。
この言葉には、酒飲みを引っ張る力がある。
箸を入れると、衣が軽く割れる。
サクッ。
その音が、酔った耳にもちゃんと届く。
中のアジは、火が入りすぎていない。ふっくらしていて、どこか艶っぽい。衣の香ばしさと、アジのやわらかい旨みが一緒に来る。
“これは反則だな”
揚げ物の満足感があるのに、魚の軽さもある。
だから日本酒にも合う。ビールでもいいだろう。たぶんハイボールでもいい。
でもこの夜は、日本酒だった。
ひと口食べて、少し間を置いて、酒を飲む。
すると衣の油がきれいに流れて、また次のひと口が欲しくなる。
こういう料理は危ない。
腹が減っていなくても、食べてしまう。
記憶が曖昧でも、味だけは残ってしまう。
もつ煮の湯気に、3軒目の体が救われる

最後に欲しくなる、温かい一皿
もつ煮が来た。
これはもう、酒場の優しさだ。
3軒目の体は、冷たい酒だけでは少し心細い。そこに温かいもつ煮があると、急に安心する。
湯気が上がる。
味噌の香りだろうか。だしの香りだろうか。酔っているから細かい分析はできない。
ただ、うまそうだということだけはわかる。
もつをひと口。
やわらかい。
噛むほどに旨みが出る。汁をすすると、体の中が少しだけ正気に戻る。
“これで帰れる”
そう思った。
いや、本当はまだ飲める気もしている。
でも、もつ煮には締めの力がある。
ラーメンほど重くない。お茶漬けほど整いすぎていない。酒場の終盤に、ちょうどいい温度で寄り添ってくる。
こういう一皿に出会うと、店の印象は強く残る。
細かい会話は忘れても、湯気だけは覚えている。
店の人との距離感、立ち飲みの心地よさ
近いけれど、踏み込みすぎない空気
立ち飲みの良さは、店の人との距離が近いことだ。
カウンター越しの動きが見える。料理が出てくる気配がわかる。グラスが空きそうになると、自分でもそれに気づく。
この距離感がいい。
近いけれど、うるさくない。
一人で飲んでいても浮かない。誰かと来ても、自然に話せる。そんな空気がある。
酔っていたから、会話の内容は正直あまり覚えていない。
それでも、嫌な感じがなかったことは覚えている。
酒場で大事なのは、何を話したかより、どう過ごせたかだ。
この夜の俺は、よく飲み、よく食べ、たぶん少し笑っていた。
それで十分だ。
与野で3軒目に行きたい立ち飲み
与野「立ち呑みハルカゼ」。





この店をきっちり語れるほど、俺の記憶ははっきりしていない。
だが、酒場というのは不思議なもので、全部覚えていなくてもいい。
日本酒の冷たさ。
鯵の海苔巻きの香り。
アジのレアカツのサクッとした音。
もつ煮の湯気。
それだけ残っていれば、もう十分じゃないか。
3軒目に来た店なのに、ちゃんとうまかった。
いや、3軒目だからこそ、余計に沁みたのかもしれない。
与野で飲んでいて、もう一杯だけいきたい夜。
少しだけ腹にも入れたい夜。
立って飲むくらいの軽さで、でも料理にはちゃんと満足したい夜。
そんな時に「立ち呑みハルカゼ」は、ちょうどいい。
店を出た後のことは、やっぱり少し曖昧だ。
ただ、夜風が気持ちよかったことだけは覚えている。
そして、心の中でこう思った。
“ああ、いい3軒目だった”
酔った夜の記憶なんて、それくらいでいい。
今回訪問した「立ち呑みハルカゼ」の詳細
立ち呑みハルカゼへのアクセス
〒330-0071 埼玉県さいたま市浦和区上木崎1丁目4−1
| 営業時間 | 月・水・木・金・土・日 16:00 – 23:00 火 定休日 営業時間・定休日は変更となる場合がございますので、ご来店前に店舗にご確認ください。 |
| オープン日 | 2025年11月11日 |
| 公式アカウント | https://www.instagram.com/harukaze202510/ |

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